思い出に寄り添う“忘れられない”味~キャベツ炒めに捧ぐ(井上荒野著)
こんにちは、いつもありがとうございます。チームエルハウスです。
誰しも“忘れられない味”の思い出があるのではないでしょうか。特別なことがあったお店の料理、母親の得意料理、学校の給食……。豪華でなくても、洒落ていなくても、作る人の思いで料理の味は決まります。口に入れた瞬間、お腹だけではなく、人々の心も満たしてくれる気がします。
3人の肝っ玉母ちゃん
東京の私鉄沿線の、小さな町の商店街に佇むお惣菜屋「ここ家」。そこで働く肝っ玉母ちゃん3人は、旬の食材をふんだんに使いながら、ああだこうだと、その食材が一番おいしくなる方法で調理していきます。トウモロコシが手に入れば、グラタンにするか、かき揚げにするか。穴子が手に入れば、満場一致でチラシ寿司。キャベツは、オシャレ料理もいいけど炒め物のほうがいいね。そんな食材とお料理に食欲を刺激されながら読み進むうちに、3人それぞれの過去の出来事が絡み合っていきます。
3人の空気感がひとつの料理
実は、それぞれが他人には想像できない経験をしている3人ですが、ほぼ毎日顔を合わせ、多くの時間を過ごして、ほどよい距離感を保っています。まったく異なるタイプですが、それぞれを思いやり、手を差し伸べたり、黙って見守ったりしながらともに過ごしている時間は、まるで世界で一番美味しい料理のようです。みんながそれぞれお互いを必要としている。そんな様子が、「ここ家」の日常から伝わってくるのです。
そして何より、登場する数々のお惣菜が魅力的すぎます。こだわりのご飯に、ロールキャベツ、肉じゃが、コロッケ、ひじき煮、がんも、あさりのフライ、茄子の揚げ煮、鰺のフライ……。季節に合った雰囲気とともに、ポンッと背中を押してくれるような温かさを運んでくれる、数々の料理を一度味わってみたいものです。
井上荒野著
『キャベツ炒めに捧ぐ』
(角川春樹事務所)
定価:594円(税込)