のこす者、のこされる者 ~その日のまえに(重松清著)
こんにちは、いつもありがとうございます。チームエルハウスです。
家族小説の名手による短編集
ある日突然、ポトンと幕が落ちるように日常が終わる。そのとき、あなたはなにを思うでしょうか。そんなことをこの本は教えてくれているように感じます。
家族小説といえば重松清といわれるほど、名手として有名な作家。温かくて、まっすぐで、でもどこか現実的な手ごたえのある短編が収められています。短編小説集でありながら、実はそれぞれがつながっていて、読者を惹きつけます。
家族の余命を描いて胸を打つ
妻の余命が1年たらずであることを知った夫、自分の余命を知りつつ気丈に振る舞う妻、真実は知らないけれどなにかを感じている息子たち。そんな家族の“その日”までの時間と、後日をやわらかく描いた作品です。
目を覚ませば、妻がいて息子たちがいる。それだけで十分なのに、それがもう叶わないことを悟った夫からあふれ出る言葉の数々は、読んでいて切なくなります。自分の死が近いことを知りながら、それでもいつも通りに母親の役目を果たそうとする妻の言葉にも胸が締めつけられます。
私たちが漠然と捉えている“死”のイメージが、この作品によって覆されていきます。それは、こんなにも悲しくて辛いのに、どこか温かくて血が通っているものなのか。決して華やかではないけれど、この家族の中には、死とは対照的な愛や絆が確かにあったのではないでしょうか。
人はどこまで“死”に寄り添えるのか
人の生は有限であり、いずれは誰もが「その日」を迎えます。自分の死であっても、誰か大切な人の死であっても、人はそれにどこまで寄り添えるだろうか。この家族のように穏やかにその準備をできるだろうか。そんなことを考えさせられます。
生きること、死ぬこと、運命や未来など、答えのないものに思いを馳せるのが好きな人に読んでほしい1冊です。
重松清著
『その日の前に』
(文春文庫)
定価:770円+税