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吉田篤弘『レインコートを着た犬』

こんにちは、福田です。

先日、お客様から、
「福田さん、本が好きらしいですね。良かったら、これ読んでみて下さい。私の好きな本なんですよ」
と小説を一冊頂きました。
ありがとうございます。

吉田篤弘『レインコートを着た犬』

ああ、良い小説だなとしみじみ思う一冊でした。
こんなにしみじみと「良い小説だな」と感じたのは久しぶりかもしれません。

一口で言えば、ほっこり系とか、日常系とかいうタイプの話なんですけどね。
とある町の、つぶれかけの映画館の番犬の目で町の人々を描写する物語です。

これがなかなかに上手いのです。

日常系とかっていうのは、退屈なものです。
言うなれば、何でもないけれど美しい日々を描写するというのが日常系と言えるでしょう。
だけど、吉田さんは上手い。
物語が緩やかに韻を踏むように進んでいくので退屈しない。
結構、テクニカルな部分もありますね。上手いです。

なおかつ技術技術していなくて、綺麗にスムーズに読ませてくれる。
流れの綺麗な文章というのでしょうか。

こういう小説ってなかなかありません。
これは秀逸と思いました。


良い小説とはどんなものか?と考えてみると。
退屈で役に立たないって大事だなと思うんです。

実用書は退屈で役に立たないはNGです。
でも、小説は退屈で、役に立たないような話がいいと思うのです。

そういう意味では、「夢を叶えるゾウ」なんかは「小説」としては最悪です。
読んでてウキウキしちゃうし、楽しいし、割と生きるヒントというか、役に立つ話がいっぱい入っている
でも、良い本だとは思います。
なんだかんだで、シリーズを何冊も読みたくなっちゃう。
夢を叶えるゾウは、資本主義の中で働く僕らには元気が出る本だと思いますし、
すごく良い本だと思います。
でも、文学作品、小説としてはダメだと思います。


退屈で役に立たないほど素晴らしいという意味では、ノーベル賞作家のガルシアマルケスの「百年の孤独」なんかですね。
もう、あれは究極じゃないかなと僕は思っています。

内容なんて、多分、読んだ人のほとんどがまったく覚えていないと思います。
そう、この前、学生時代の友人と、川端康成の雪国について話していて、
「雪国みたいに山を越えた温泉に、愛人じゃないけれど、そういう女の人がいるなんて、昔は憧れたもんだねー」
などと話しておりましたら、
「え、雪国ってそんな話だったっけ??」
となりました。
彼も随分と本を読む男でした。

でも、多分、良い小説の本質ってそんなもんだと思うんですよ。
内容なんか全然覚えていない。


百年の孤独は、買うと結構高いし、かなり読みづらいですが、

日本人の誰でも分かりやすいところだと、
教科書に載っている梶井基次郎の「檸檬」ですね。
まあ、あれも退屈だし、クソの役にも立たない。

結構短い話なのに、たいていの人は檸檬の内容なんて覚えていない。

志賀直也の「城之崎にて」もそうでしょう。
でも、城之崎にては、イモリが死んじゃってドラマがありますからね。生き物が死ぬと、何だか悲しいじゃないですか。そういう意味では、ドラマがあって、退屈さの点では檸檬には及びません。

それにしたって百年の孤独は、それをはるかに越える退屈さを分厚い本でやり続けるので、やっぱりすごいです。
しかも、最後までオチはない(笑)
でも、あれぞ、小説の極みだと思います。
全く面白くもないし、役にも立たないし、意味も分からないんですが。


もちろん、退屈じゃなくても、優れた小説もありますけどね。

でも、何ていうか、サクサク読めて、ドンドン進んでしまうのは、マンガで良いと思っちゃうんですよね。
小説は退屈で、いくらか読みにくい方が良い。
いや、読みやすい方が助かるんですけど。

何の役にも立たないほど素晴らしい。
いや、せっかくならちょっとくらいは役に立ってくれると嬉しい気もするんですけどね。

当たり前ですけど、退屈で役に立たない本は売れませんよね。
特に今の時代、本として流通するには、ある程度おもしろかったり、役に立つ本じゃないといけない。

特に最近、売れるか売れないかってシビアですよね。
面白くないものは、面白くないと評価されるし、
また、その評価が忖度なく、レビューという形で、多くの人に見えるので。


でも、これは文章じゃないと表現できないなっていうことってあると思います。
映画や漫画になっちゃうと、味が消えちゃうようなタイプの話。

そういう意味で「レインコートを着た犬」は良い本でした。
まあ、文のリズムが上手なので、割とサクサク読めちゃうタイプの本でしたけど。
中身は実に淡々と、日常を描く、役に立たない、退屈な話と言って良いと思います。
別に事件というほどの事件も起きないし、ドラマというほどのこともない。

久々に本当に良い小説だなと思いました。

おもしろい小説っていろいろありますけど、退屈で淡々としている本って良いです。

読み終わった後に、吉田篤弘さんの本をアマゾンですぐにポチっちゃいました。
同じ作者の本を複数買うって久しぶりですね。

この人の書く文章をもっと読みたい。
そんな文に出会えるというのは、実に人生の喜びだなと思います。

そんな感じの福田でした。

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